これも突然の話しでしたが、あの姉がいきなりギターが欲しいと言い出したのです。我が家は、ハッキリ言ってとても小さいし、周りの家も密集しています。どんなに気を使って音を出しても近所迷惑になってしまいます。両親はもちろん反対しましたが、頑固な姉は諦めません。自分の貯めた小遣いで買うから、必ず小さい音で弾くから・・・と親を説得し続けたあげく、夜8時以降は絶対に弾かないことを条件に、ようやく買うことを許されました。自分は小学校時代音楽の授業が大嫌いで、楽譜はもちろん読めるはずもなく、楽器なんて尚更、全く無縁の人生を送っていたのですが、実はこの時、姉がギターを買ってくれたお陰で、自分はギターと出逢うことが出来たのです。 姉の買ったギターは金額的には確か¥15,000くらいだったと思います。姉の貯金が全て無くなっては可哀想だと、父がいくらか援助した記憶があります。ギターのヘッドにはYamakiと書かれていました。女性用の一回り小さめのギターでした。姉は楽器店で薦められた初心者用ギターの入門書を買って毎日「禁じられた遊び」を練習していました。NHKの教育でやっていたギターレッスンの番組も欠かさず見ていましたが、何故か一向に上達しません。ある日、「私の弾きたいのはこんなんじゃない!」と言って、流行りのフォークソングがたくさん載っている「フォーク全曲集」を買ってきて、再度練習を始めましたが、それも束の間、姉はだんだんと高校の友達と出歩くことが多くなり、外で過ごす時間が増えて行きました。もう熱が冷めてしまったのか、姉のギターの練習風景を見ることはめっきり減ってしまったのです。自分が中学から帰宅すると、姉はいません。姉の留守中にこっそりとギターケースからギターを取り出して、グレープのレコードをかけながら鏡の前に立って、ギターは弾けないので弾く真似だけして、グレープの一員に成ったつもりで、クチパクで下手な歌を歌っていました。
「ギターとの出逢い」
