森鴎外「雁」のあらすじ

森鴎外との出逢い
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  東京上野の本郷界隈が、森鴎外の小説「雁」の舞台となります。この小説に出てくる不忍池や無縁坂は東大医学生である主人公の岡田が、毎日夕食後に散歩するコースの途中にあります。この無縁坂を下った中程に、高利貸しの妾となった、若くて美しいお玉という女性が住んでいます。彼女は貧しい父親に楽な生活をさせたい一心で、高利貸し末造の妾に成りますが、しかし彼女は毎日家の前を散歩して通る医学生の岡田に、いつしか好意を抱くようになります。また岡田もこのお玉のことが気に成り始めます。そんなある日お玉の飼っている小鳥が蛇に襲われ、偶然通りかかった岡田が蛇を退治します。お玉は岡田に近付けたことを喜びますが、思うように声を掛けられない自分に苛立ちながら、岡田に対する思いを募らせて行きます。そんな折り、高利貸しの末造が泊まりの仕事で出掛けて行きます。末造が留守の間に、お玉は今度こそ岡田に声を掛けようと、岡田が無縁坂を散歩で通るのを待ちます。しかしその日に限って岡田は行きも帰りも、友人と一緒で、結局声を掛けることができぬまま、その日の翌日には、岡田は旅立ってしまいます。岡田は教授の推薦を受けてドイツ人医師のもとで働くことが決まっていたのです。
小説の最後の最後に「雁」が登場します。岡田が旅立つ前の晩、岡田は下宿での夕食の献立が苦手で食べられないという友人に付き合って散歩に出掛けます。無縁坂を降りかかるとお玉の姿が目に入りますが、岡田も友人も何かを言いたそうなお玉を横目で見ながら坂を通り抜けて行きます。不忍池まで降りると偶然もうひとりの友人と出逢い、その友人が雁に向かって石を投げると言うので、岡田は雁を逃がそうと脅かすつもりで石を投げますが、その石が誤って雁に当たって雁は死んでしまいます。そして三人はそれを持ち帰って鍋にして食べてしまいます。
小説は岡田が下宿からいなくなったところで終わります。妾と学生という立場で、互いに心を引かれ合いながらも、それぞれの思わくにはズレがあり、ちょっとした歯車の喰違いで、言葉のひとつもまともに交わすことが出来ぬまま、別れていく男女のすれ違いをこの小説は描いています。

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