ランが旅立ちました。

助けてあげられなくてごめんなさい

  桜の花びらも散り終わり、小学校の新学期が始まって二週間が過ぎようとしていました。その日の朝、いつもと変わらずに子供たちは、元気に「行ってきます!」と言って家を出て行きました。

  たまたま仕事が休みだった自分は、ランとイチコを家に残して、カミさんと一緒に近くのスーパーに買い物に出掛けたのです。家を留守にしたのはほんの僅かな時間だったのですが、買い物が終わって家に戻ってみるとダイニングテーブルの脇でランが、半分目を開いた状態で倒れていました。

 カミさんと自分は幾度となくランに呼び掛けました。でもランは微動だにしてくれませんでした。病院に電話をしてランの状態を報告、すぐに連れて行くことになりました。

 身体が固くなり始めたランを抱き上げた時、体重が軽くなっていたことを改めて感じました。カミさんはランの全身をバスタオルでくるんで、顔だけ出した状態のまま抱き抱えて、助手席に乗り込みました。

 病院に着くとすぐに診察室に通されて、先生が動かなくなったランのお腹に聴診器を当てて心音を確認。そのあと、看護師さんがランの全身を綺麗に拭いてくれました。別の看護師さんが、ランの身体がスッポリ入るくらいの大きさの箱を持ってきて、その箱の中に、ランをそっと寝かせてくれました。他の看護師さんたちも花を持って集まって来て、ランのまわりをたくさんの花で飾ってくれました。

   カミさんはその箱を大事に抱きかかえたまま、車の助手席に座ります。先生や看護師さんたちに見送られて病院をあとにしたのですが、家に着くまで夫婦の間に会話はありませんでした。家の駐車場に着いた時、カミさんが「ランは幸せな犬だったよね。」と。それに対して自分は黙って頷いただけでした。

 学校から帰って来た子供たちは、いつもなら「ただいま!」と元気良く玄関を入って来るのですが、この日に限っては、「ランはどこ?」と聞いてきました。カミさんも自分も「お帰り!」と言ったあと次の言葉が出ないまま、子供たちと合わせた目を、テーブルの上の大きな箱に向けていました。子供たちは黙ってテーブルに近づき、箱の中の花に囲まれたランの姿を見て、しばらくは声が出ない状態でしたが、いきなりしゃくり上げる様に大きな声で、ふたり揃って泣き出しました。 

 

 ランは先天性腎臓病で亡くなってしまいましたが、余命3カ月と宣告されたあと、半年以上も頑張って長く生きてくれました。

 ランの子供のイチコが親の遺伝子を引き継いでいるとすれば、イチコも同じ病気にかかる可能性があります。イチコは定期的に検査を受けるようにしています。

 2017年2月、イチコはお陰様で9回目の誕生日を元気に迎えました。ランの冥福とイチコがいつまでも健やかでいることを祈ります。

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