「ジャック・ラッセル・テリアの出産」

出産が始まりました
 出産予定日まであと5日になりました。夕方になってふと気がつくと、玄関から居間に向かう廊下の途中に、何やら緑色っぽい液体がこぼれていました。これは果たしてランの破水なのか?さっそく動物病院に電話をしたら、まずは慌てずにそのまま様子を見守るようにと言われました。(後から知ったことですが、緑色の液体が出た時は、お腹の中で異常な状態が起きている証拠だそうです。この時お世話になった病院の先生は、あくまで自然分娩が一番大切だと考える先生でした。)

 その晩のランの様子には、特別いつもと違ったことはありませんでしたが、翌朝、時計の針が6時30分を少し回った頃に、ランの動きは明らかにこれまでとは違いました。予定日まではまだ4日ありましたが、いよいよ出産が始まりました。 ランは、たまにキョロキョロと落ち着き無く周囲を見回している様子。しかし、首から下の身体の大部分はほとんど動くことがなく、ただ踏ん張っている状態がしばらく続いたあと、  ランのお尻から何やら薄い皮をかぶった塊が徐々に顔を出しました。

 よく見ると薄い皮の中でその塊は微かに動いている様子。ランはその塊を産み落とそうと必死に力んでいますが、ただただ見守ることしか出来ませんでた・・・・・・・。

それからおよそ30分。ようやくその塊が全容を表しました。

 しかし産み落とされてしまった塊は、薄皮の中で動きが止まっているように見えます。ランは自分の胎盤を食べるのに夢中で、自分の産み落とした物体に対して見向きもしません。どうして良いのかわからなくて、急いで病院に電話をして指示を仰ぎました。医者の言う通りに、恐る恐る薄皮を剥ぎ取ってみると、中からジャック・ラッセル・テリアの赤ちゃんが出てきました。しかし目を閉じたまま微動だにせず、息もしていません。繋がったままの電話の向こうから、「頭を下にして振ってみて」と言われて試してみましたが何も変わりません。鼻の穴に詰まった羊水のせいで息が出来ないのかと思い、吸い出そうと試みましたが、吸いきれませんでした。もう成す術はなくすべてを諦めて「おい、ラン おまえの子どもだぞ! どうにかしろよ!」とランの鼻先に赤ちゃんを近づけたそのときでした。気持ちが通じたのか、ランが産まれたばかりの赤ちゃんの小さな鼻と口、そして身体全身を舐め始めたのです。赤ちゃんの薄汚れた身体は見る見る綺麗になって、ジャック・ラッセル・テリアの赤ちゃんらしくなって行きます。そして時計の針が8時30分を過ぎた時、小さな小さな、でも待望の産声が聞こえたのです。

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